sk2 「たった一人の大切な人」



「また別れたのか?」

そこにいたのは佐々木政宗だった。
顔は不機嫌そうだ。

「何言ってるの?もとから付き合ってないよ?」

笑顔で答えたのは川村昇だ。
学校からの帰り道だった。

「今のお姉さんに同情するぞ?」

川村は佐々木が言う『お姉さん』に平手打ちされていた。
そこを佐々木は目撃したのだ。

「どうして?見てたんだろう。叩かれたところ。同情するならボクにしてよ」

川村の顔が紅葉型に腫れてきた。
笑顔がいっそう川村を痛々しくみせていた。
顔が腫れているからではない痛み。
深いところでの痛み。

「あのお姉さんは付き合ってるつもりだったんだろう?おまえ、否定しないから」
「まさか。いくらなんでもそこまで酷くないよ、ボク」
「じゃ、何で叩かれたんだ」
「告白されて、断り方が悪かったみたい」

川村は笑ってるのに、なぜか空虚に感じられて佐々木は焦った。
いつもと違う。

『好きな人がいるの?』
『違います』
『じゃあ、どうして?!』
『あなたを好きじゃないから』

プライドの高そうなお姉さんだったから悪かったみたい。
そう付け足して川村は苦笑する。

「そんなことで叩かれて悔しくないのか?」
「悔しくないけど……痛いね」

佐々木は眉をひそめた。

「政宗が気にすることじゃないよ。早く帰ろう」

川村が佐々木の腕をひっぱった。川村は何を急いでいるのだろう。

「ひっぱるな!」
「細かいことは気にしないで」

佐々木は気づいた。
落ち込んでる。川村は。
柄にもなく。
佐々木はため息をついた。

「おまえ、誰か好きな奴、本当にいないのか?
たった一人の大事な人はいないのか?」

佐々木にしては珍しい言葉。

「たった一人……」

川村はつぶやいて何かを考えるような難しい顔になった。

「昇にはそれが必要だと俺は思う」

佐々木が真剣な言葉を川村に向ける。
慰めているのだ。佐々木なりに。
これが慰めの言葉か?!とは思うが。
だが、川村には届いたようだ。
今度の笑顔は本物だ。

「政宗はいないの?」
「いない。一人じゃないだろ、大事な人は」

川村は目を見開いた。

「そうだね。政宗はそうだろうねぇ」
「なんだ、その含みのある言い方は」

睨まれて川村は肩をすくめる。

「ありがとう」

川村が突然言う。

「なんだいきなり。礼を言われるようなことはしていない」

佐々木は断言する。

「言いたかったの。気にしないで」
「大バカ者め」

そう言う佐々木の顔は赤く染まっていた。
すぐに見えないように、そっぽを向かれたが。
照れているのだ。

「そんな大バカなおまえには、早く大事な人が現れないと困るな!」

吐き捨てるように佐々木は言った。
照れを隠すように。
川村がそれを見て笑い出した。

「もう、出会っているのかもしれない。」

川村がボソリとつぶやいた。

「ん?何か言ったか?」
「何も」

川村がまた、佐々木の腕をつかんで走り出した。

早くたった一人の特別な大切な者が見つかることを祈って。

そして、大切な人が一人じゃなくなることを祈って。




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