めもりは眠れずに外にいた。今日はアプリも一緒だ。
雨が上がりのせいか、風が湿っている。
「自然はただそこにあるだけだ」
つぶやいても、誰もいないから、気にならない。
目の前に広がる平野は草が生い茂っている。空の雲は夕暮れ前の微妙な色を映し薄桃色に染まっている。
「もうすぐ日が落ちるんだ」
「わん!」
めもりの独り言にアプリが答える。
「この世界は綺麗だな」
「人がいない方が綺麗なのかもしれないな」
自嘲気味に言う。きっと誰かと一緒なら、この大自然を綺麗だと思うことはないだろう。一緒にいる人のために動くからだ。自然を見る余裕なんてない。彼はそういう人間だ。
「覚えている人が増えたら、この自然はなくなると思う。昔の資料で見た都市みたいになるんだと思う。ここは都市部みたいだし、便利な機能も残っているから覚えていられるなら使えるようになる」
アプリにはわからないだろう。ニュアンスは理解できても、人間の言葉の内容までは理解できない。それでも、めもりは言わずにはいられない。
「俺が選択して、この世界が覚えていられる人間であふれたらどうなるんだろう」
想像しても、めもりにはわからない。
「人は自由に、自分の思った通りに生きていくのかな」
吹き出す。笑ってしまった。
「想像力なさすぎだ。前みたいに戻るだけなのに。前みたいっていうを知らないからか」
無理に笑うめもりに、アプリがすり寄る。優しくその頭を撫でた。
「自分に関係のないことまで考えるのが馬鹿らしくなってきた」
めもりは目を瞑って、草っぱらに寝っ転がる。雨で濡れていたので、めもりも同じように濡れた。
「冷たっ!」
めもりは腹の底から笑い出す。
「この世界は知らないことで溢れてる。それでいいのか」
「わんっわんっ」
アプリが心配するように鳴く。
「この世界は広くて綺麗で俺が知らないことばっかりだ。全部どうでもよくなればいいのになぁ。ただ、何にも考えないで明日のご飯のことだけ心配して生きていけたらどんなに幸せだろう」
「でも、たぶんこの世界はそんな風にならない。覚えてられないことっていうのは
そういうことだ」
泣きそうになりながら、めもりは思う。確かに覚えてられないなりに生きていた人達もいたけど、本当に大切な気持ちを毎日忘れてしまっている気がする。自分の名前や親や子供の名前は覚えたいたい。
「俺は、そういう風に生きていきたい。穏やかで明日のご飯だけを心配するような生活を自然に近い場所で」
このままでもできるけど、独りはイヤだな、とめもりはつぶやく。
陽が本格的に落ちてきた。
「今日はそろそろ帰るか」
めもりは、寝転んだせいで草が含む雨露で濡れた身体を起こした。
「アプリ、ビットとカレンが待ってる。帰ろう」
「わんっ!」
二人は夕闇の中、もと来た道を戻った。
雨が上がりのせいか、風が湿っている。
「自然はただそこにあるだけだ」
つぶやいても、誰もいないから、気にならない。
目の前に広がる平野は草が生い茂っている。空の雲は夕暮れ前の微妙な色を映し薄桃色に染まっている。
「もうすぐ日が落ちるんだ」
「わん!」
めもりの独り言にアプリが答える。
「この世界は綺麗だな」
「人がいない方が綺麗なのかもしれないな」
自嘲気味に言う。きっと誰かと一緒なら、この大自然を綺麗だと思うことはないだろう。一緒にいる人のために動くからだ。自然を見る余裕なんてない。彼はそういう人間だ。
「覚えている人が増えたら、この自然はなくなると思う。昔の資料で見た都市みたいになるんだと思う。ここは都市部みたいだし、便利な機能も残っているから覚えていられるなら使えるようになる」
アプリにはわからないだろう。ニュアンスは理解できても、人間の言葉の内容までは理解できない。それでも、めもりは言わずにはいられない。
「俺が選択して、この世界が覚えていられる人間であふれたらどうなるんだろう」
想像しても、めもりにはわからない。
「人は自由に、自分の思った通りに生きていくのかな」
吹き出す。笑ってしまった。
「想像力なさすぎだ。前みたいに戻るだけなのに。前みたいっていうを知らないからか」
無理に笑うめもりに、アプリがすり寄る。優しくその頭を撫でた。
「自分に関係のないことまで考えるのが馬鹿らしくなってきた」
めもりは目を瞑って、草っぱらに寝っ転がる。雨で濡れていたので、めもりも同じように濡れた。
「冷たっ!」
めもりは腹の底から笑い出す。
「この世界は知らないことで溢れてる。それでいいのか」
「わんっわんっ」
アプリが心配するように鳴く。
「この世界は広くて綺麗で俺が知らないことばっかりだ。全部どうでもよくなればいいのになぁ。ただ、何にも考えないで明日のご飯のことだけ心配して生きていけたらどんなに幸せだろう」
「でも、たぶんこの世界はそんな風にならない。覚えてられないことっていうのは
そういうことだ」
泣きそうになりながら、めもりは思う。確かに覚えてられないなりに生きていた人達もいたけど、本当に大切な気持ちを毎日忘れてしまっている気がする。自分の名前や親や子供の名前は覚えたいたい。
「俺は、そういう風に生きていきたい。穏やかで明日のご飯だけを心配するような生活を自然に近い場所で」
このままでもできるけど、独りはイヤだな、とめもりはつぶやく。
陽が本格的に落ちてきた。
「今日はそろそろ帰るか」
めもりは、寝転んだせいで草が含む雨露で濡れた身体を起こした。
「アプリ、ビットとカレンが待ってる。帰ろう」
「わんっ!」
二人は夕闇の中、もと来た道を戻った。
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