「これは、迷路だね」
ビットがため息をつきながら言った。忘れない人がいる、と言われていた街についた。
「やっと着いたと思ったのに」
「この迷路のような入り口は防犯かな。忘れる人は例え正しい道を知っていても忘れてしまうからね。それにしても、これを考えた人はすごいね。忘れていてもちゃんと守られるしコストもかからない」
「こんなことしなきゃいけない理由
でもあるのかな?」
忘れない人というのは、何か厳重に守らなければならない重大なことがあるのだろうか、会えるだろうか、とめもりは不安になっていた。
「とてつもない秘密があったり、はたまた、とんでもないお宝があったりとか?」
ビットは上機嫌に言っていた。彼は解明できていない謎なことが大好きなのだ。根っからの研究者タイプだ。
「どちらにせよ、ここに入らなきゃいけないわけだけど」
ビットは更に深いため息をついた。
「問題は、入り口が二つあることだよね」
めもりも釣られてため息をつく。眼前には大きな白い壁に区切られた入り口が二つ。
「全体の大きさがわからないから、どのくらい時間がかかるのか、とかわかんないもんね」
「別々に行くしかないか」
「それが効率的かな」
「街だから、そんなに大規模なセキュリテイシステムはないと思うけど、無事を祈るよ、ビット」
「メモリも!」
二人は別々の入り口に入った。
「なんの変哲もない壁ばっかりだ。道は合ってるんだろうか……」
めもりは不安になりながら道を進んでいた。
「左手をついていくといいんだっけ?」
不安からか、独り言が多くなる。
「あれ?」
めもりはおかしさを感じていた。歩くための真ん中に雑草が多く生えているのを見て、めもりは確信した。
逆手の右手をついて、スタート地点まで戻った。
「やっぱり。この道、全然通った後がないんだ。俺の足跡だけしかない」
考えられるのは一つ、スタート地点にゴールがあるのだ。
「あった」
白い壁に良く見ると押せるような四角いくぼみがあった。迷いなく押した。
ゴゴゴッ。
白い壁かと思われていたところに線が出来、扉が開いた。
「扉を隠すには、少し危機管理が足りなくないかな。こんなんじゃ、すぐわかっちゃう。……覚えていないせいなのだろうか」
めもりは悩みながらも、扉をくぐった。後ろで白く厚い扉が閉まった。
「ここは!」
水のない噴水のある楕円形の公園のような場所だった。桜の花びらがヒラヒラ舞っていた。この世界では通常、常に気温は15度程度が主だ。でなければ、忘れる人間は生きていくことができない。温暖な気候こそが今まで人類が生きてこれた証だからだ。その常春の状態で、桜が咲くということは有り得ない。桜は冬の低温な時期を過ごさなければ咲かないからだ。今の状態は狂い咲きだ。今まで咲くことのなかった桜が咲いていた。誰かの訪れを歓喜しているかのように。出会いを祝福しているかのように。
「……あなたは?」
目の前に女性がいた。茶色い髪が花びらと共に舞っている。めもりは、あまりにも衝撃を受けていた。震える声を必死に抑えて尋ねた。
まるで、世界に色がついたかと思った。彼女の周りだけが美しく光り輝いていた。今までの自分の人生の中でこんなに衝撃的な瞬間があっただろうか。こんなにも景色がはっきり見える。
「カレン。私の名前はカレン・フォーカス」
苗字まで名乗ったのを聞いて、メモリがもしかしたらと思い、はやる気持ちを抑えながら聞く。
「あなたは忘れない人?」
「……違うわ。私は忘れない人じゃない。でも、この苗字には意味があるの。罪の名前よ」
「罪の名前?」
「そう。祖先の罪よ。だから、名乗り続けるの。じゃないと罪を忘れてしまうでしょ?」
「罪って?」
「あなたに話すようなことじゃないわ」
「俺は覚えてる人間だ! 話してもらう。じゃなきゃ、ここまで旅をしてきた意味がない!」
「そう!あなたが! ……悪いけど、ここ数日徹夜をしていて、とても眠いの。悪いんだけど、起きたら話を聞かせてほしい」
カレンはスタスタと自分の部屋のある建物に戻ろうとした。
「ちょっと待って! カレン!」
カレンはくるりと振り返り言った。
「忘れてしまうけど、あなたの名前は?」
「メモリ。俺の名前はメモリ!」
「そう、メモリ。またね」
そう言って彼女、カレンは微笑んだ。
「カレン……」
行ってしまったカレンに思いを馳せて、めもりは熱いため息をついた。
「胸がドキドキしてる」
めもりの心臓がドクンドクンと高鳴り続けている。頬は赤く染まっている。俗に言う一目惚れだ。しばらくそのまま余韻にひたっていためもりだが、あることを思い出した。
「あ! ビットのこと忘れてた!」
めもりは、ビットを探しに桜の咲く楽園から出たのだった。
ビットがため息をつきながら言った。忘れない人がいる、と言われていた街についた。
「やっと着いたと思ったのに」
「この迷路のような入り口は防犯かな。忘れる人は例え正しい道を知っていても忘れてしまうからね。それにしても、これを考えた人はすごいね。忘れていてもちゃんと守られるしコストもかからない」
「こんなことしなきゃいけない理由
でもあるのかな?」
忘れない人というのは、何か厳重に守らなければならない重大なことがあるのだろうか、会えるだろうか、とめもりは不安になっていた。
「とてつもない秘密があったり、はたまた、とんでもないお宝があったりとか?」
ビットは上機嫌に言っていた。彼は解明できていない謎なことが大好きなのだ。根っからの研究者タイプだ。
「どちらにせよ、ここに入らなきゃいけないわけだけど」
ビットは更に深いため息をついた。
「問題は、入り口が二つあることだよね」
めもりも釣られてため息をつく。眼前には大きな白い壁に区切られた入り口が二つ。
「全体の大きさがわからないから、どのくらい時間がかかるのか、とかわかんないもんね」
「別々に行くしかないか」
「それが効率的かな」
「街だから、そんなに大規模なセキュリテイシステムはないと思うけど、無事を祈るよ、ビット」
「メモリも!」
二人は別々の入り口に入った。
「なんの変哲もない壁ばっかりだ。道は合ってるんだろうか……」
めもりは不安になりながら道を進んでいた。
「左手をついていくといいんだっけ?」
不安からか、独り言が多くなる。
「あれ?」
めもりはおかしさを感じていた。歩くための真ん中に雑草が多く生えているのを見て、めもりは確信した。
逆手の右手をついて、スタート地点まで戻った。
「やっぱり。この道、全然通った後がないんだ。俺の足跡だけしかない」
考えられるのは一つ、スタート地点にゴールがあるのだ。
「あった」
白い壁に良く見ると押せるような四角いくぼみがあった。迷いなく押した。
ゴゴゴッ。
白い壁かと思われていたところに線が出来、扉が開いた。
「扉を隠すには、少し危機管理が足りなくないかな。こんなんじゃ、すぐわかっちゃう。……覚えていないせいなのだろうか」
めもりは悩みながらも、扉をくぐった。後ろで白く厚い扉が閉まった。
「ここは!」
水のない噴水のある楕円形の公園のような場所だった。桜の花びらがヒラヒラ舞っていた。この世界では通常、常に気温は15度程度が主だ。でなければ、忘れる人間は生きていくことができない。温暖な気候こそが今まで人類が生きてこれた証だからだ。その常春の状態で、桜が咲くということは有り得ない。桜は冬の低温な時期を過ごさなければ咲かないからだ。今の状態は狂い咲きだ。今まで咲くことのなかった桜が咲いていた。誰かの訪れを歓喜しているかのように。出会いを祝福しているかのように。
「……あなたは?」
目の前に女性がいた。茶色い髪が花びらと共に舞っている。めもりは、あまりにも衝撃を受けていた。震える声を必死に抑えて尋ねた。
まるで、世界に色がついたかと思った。彼女の周りだけが美しく光り輝いていた。今までの自分の人生の中でこんなに衝撃的な瞬間があっただろうか。こんなにも景色がはっきり見える。
「カレン。私の名前はカレン・フォーカス」
苗字まで名乗ったのを聞いて、メモリがもしかしたらと思い、はやる気持ちを抑えながら聞く。
「あなたは忘れない人?」
「……違うわ。私は忘れない人じゃない。でも、この苗字には意味があるの。罪の名前よ」
「罪の名前?」
「そう。祖先の罪よ。だから、名乗り続けるの。じゃないと罪を忘れてしまうでしょ?」
「罪って?」
「あなたに話すようなことじゃないわ」
「俺は覚えてる人間だ! 話してもらう。じゃなきゃ、ここまで旅をしてきた意味がない!」
「そう!あなたが! ……悪いけど、ここ数日徹夜をしていて、とても眠いの。悪いんだけど、起きたら話を聞かせてほしい」
カレンはスタスタと自分の部屋のある建物に戻ろうとした。
「ちょっと待って! カレン!」
カレンはくるりと振り返り言った。
「忘れてしまうけど、あなたの名前は?」
「メモリ。俺の名前はメモリ!」
「そう、メモリ。またね」
そう言って彼女、カレンは微笑んだ。
「カレン……」
行ってしまったカレンに思いを馳せて、めもりは熱いため息をついた。
「胸がドキドキしてる」
めもりの心臓がドクンドクンと高鳴り続けている。頬は赤く染まっている。俗に言う一目惚れだ。しばらくそのまま余韻にひたっていためもりだが、あることを思い出した。
「あ! ビットのこと忘れてた!」
めもりは、ビットを探しに桜の咲く楽園から出たのだった。
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