1.走り抜けたいけど〜西條理亜〜



夏休みに入って、私は自分の生活を楽しんでいた。もちろん、ハルカと速水のことなんて忘れて!

私は夏休みの前期は海外留学に行っていた。だから、二人のことなんてすっぱり忘れていた。いや、忘れるように努力していたのだ。

だけど、こんなことなら、怒りを抑えてもっと冷静に対処していればよかった、とこの私が後悔することになるなんて!

まさか、ここまで事態が悪くなっているとは思わなかった。


始まりは、夏休み前。

ハルカと速水の様子がおかしいので、問いつめた。

だけど、二人からは何の答えも引き出すことはできなかった。

あげくに!私に関わらないでくれオーラを出し始めたのよ!!

ハルカは私をみかけると逃げ出す始末。

速水も放課後、三人の風紀委員が開かれるいつもの教室に来ないって手にでたの。会わないようにするのなんて、実際簡単なのよね。学年が違うんだから。

私を邪険にするなんていい根性してるじゃない!二人共!

と、そこで怒って私まで、二人と関わることをやめてしまったのが敗北の原因なんだわ!

私がそこで、状態回復のために何かしていれば、ハルカと速水のここまで暗い顔を見ることもなかったのに……。

いつもは後悔なんてしたことない私が後悔するはめになったのよ!

まあ、私の夏休み短期留学のためのごたごたした準備や事情も関係あるから一概にこうしたらよかった!なんて答えはないんだけどね。


私だけでもどうにかしてやる!と思ったものの、微妙な三角関係を私だけがどうにかしようとがんばってもどうしようもないっていう状況に陥ったってわけよ。

なんでこんなことになちゃったのかしら。弱気なのは私らしくないから、強気でいきたんだけど……いつも強気でなんていられないわ。



しかも、随分前に夏祭りに行く約束をしちゃってた訳よ。

二人は来ると思う。

ハルカはクソ真面目で約束を破るなんてありえないし、速水はそれをわかっている。だから、来る。なんだかんだ言っても速水は必ずハルカに会いにくるわ。会いたいはずだから。ハルカに会って、安心して、眠ってしまいたいっていう欲求を満たしにくるわ、必ず。耐え切れないと思うから。人間は眠れないと死ぬもの。

その二人を二人きっリにできない。私だけは、二人を放っておいてはいけない、というのは建前で、本当は気になるからっていうのもあるのよね。

なぜか、速水が気になる気持ち。ハルカを姉みたいな気持ちで見守ってる気持ち。その二つの気持ちがある限り、ハルカと速水からは離れられないってわけよ。



夏祭り当日。

私が少し遅れていくとハルカと速水はすでに来ていた。

真面目なハルカのことだから、五分前にきていたのだろう。

速水はそれより前にきていたに違いない。目の下のクマが全てを語っている。寝れていないのだ。眠れない病気のようなものにかかっている速水はハルカの側でだけ眠れる。ハルカを求めて早くきたに違いないわ。

ハルカは気まずそうな顔をして、速水の顔を窺っている。

きっと、自分が会わなかったことで速水が寝れなかったということを気に病んでいるんだわ。

とことんお人好しだから。

そんなハルカを見ていると、速水のこと突き放してあげたらいいのに、と思う。

思いに応えられないのなら、きっぱり突き放すべきよ!

……そう簡単に割り切れる問題じゃないって気づいたのは……実は最近。

ハルカに微笑まれて、幸せそうに笑う速水をみたから。

速水にあんなに想われていたら、そりゃ、ハルカだって惚だされるんじゃないのかしら。

好かれて気を悪くする人はいないでしょう。

いつでもどこでも『ハルカ先輩!』って言って熱烈に告白してるも同じな速水に全然気づかない鈍感すぎるハルカもハルカだけどね。

微妙な二人の雰囲気を壊すために私は声を腹から出した。

「なにしてんの! 早く行くわよ! お祭が終わっちゃうわよ!」

私達は前に踏み出すためにここにいるんだから。立ち止まったら進めなくなる。

私と春日はもうすぐ卒業。時間がない。

立ち止まっている暇なんてないのよ。だから、超スピードで走り抜けちゃいたいわ。

吹っ切って、どこか違う場所へ行くために。

ここから……この曖昧な関係から抜け出すために。





だいたい、速水は全然わかってないのよ。

速水自身が思っているよりハルカは速水のことを気にしてるし、恋愛の意味ではないけれど、好きだと思う。

それを思い知らされたのは……一枚の写真。

速水が泳いでる写真じゃなくて、日常のワンシーンだった。

寝ているところだった、速水が。

安らかな寝顔は、とっても安心できる一枚だった。

「きっと、ハルカは速水に安らぎを求めてるんだわ。速水がハルカの側でだけ眠ることで、ハルカも癒されているんだと思うんだけどな」

側にいて、安心できる存在なんてそうそういるものではない。

知らぬは本人達ばかり。

「あんなに二人は近くにいるのに、どうして、本人達にだけ、その距離が見えていないのかしら」

近すぎて見えていないだけ。

もどかしいけど、それを認めるのは癪だった。

その問題に私が介入できないからだ。

それは、二人の問題だからだ。

私にできるのはせいぜい、見守ること?

………………出来ない! しかも私には絶対似合わない!

柄じゃないから、ひっかきまわしちゃうかも。

その方が楽しいから♪

その方が笑って生きられるでしょ?

暗い顔して生きてるなんて、人生の半分、捨てたも同じだと思うから。




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