sk4「涙のわけ3」



「佐々木政宗」視点



最近、昇の笑顔をみているとイライラしてくる。
その笑顔を見せるのが俺にだけじゃないからだ……。

それは変な意味じゃなくて、
俺のことを前より気にしなくなったってことだ。
昇の友達は俺だけじゃない。
そんなのわかってる!
いくら俺でも。

だから、そんな嫉妬じみた感情、俺は否定したい。
でも、日々そのイライラは増してきている。

子供の頃に聞いた言葉がまだ、残っているからだ。

『ぼくを頼ってよ!』

なんでその言葉だけを覚えているのかわからない。

今、昇が言わなくなってしまった言葉。

欲しい言葉。

そう言われたら、頼ってしまう気がする。
もちろん、依存じゃなくて。
でも、そうならない保障なんてない。
だから、嫌なんだ。
頼るのは。

自分からは誰かに弱味をみせることなんてできない。
意地を張ってるってわかっていても。

どうしようもできない自分の気持ちに一番、

イライラする。


「は?おまえら頭悪いな」

塾の帰り道、ぶつかって過剰に痛がられた。
3人の不良と思われるガラの悪い少年。
イライラした気分をとっぱらうには絶好の機会。

挑発する言葉を吐く。

決して自分からは殴らない。

正当防衛にするために。

「てめぇ!」

殴りかかってくる頭の悪そうな少年。

この時、唯一の誤算は一番体の小さい少年がいたことだった。
彼は腕力はないが、頭がいい。
デカくて頭の悪い奴ら2人を効率的に動かしていた。
頬に拳がかする。

やられてしまう!

俺は初めて恐怖を感じた。

「佐々木君!!」

声がした。
峰岸とか言ったっけか……。
昇が仲良くなったちっちゃい奴の後ろにいつもいるデカイ男。

必死で防御しながらそんなことを思う。

「峰岸……?」
頭のいい不良少年の動きが峰岸の顔を見るなり止まった。

俺もつい、そこに目がいってしまった。

目の前の頭の悪そうな男に殴られた。

頬に衝撃が走る。

意識が朦朧(もうろう)としてきた。

俺様としたことが……。
情けない。

「佐々木君…大丈夫?」
峰岸がそんなことを聞いてくる。
「……なんでおまえがここにいるんだ」
なんとか口を開いた。
「道路を歩いていることは普通のことだと思うよ」
「そういう意味じゃない……」
俺の意識は完全にブラックアウトした。


目を覚ますと母さんに散々怒られた。
そして、病院に連れて行かれた。
検査結果は異常なし。
母さんがホッとしていた。
だけど、安静にしていなければならなかったから、ベッドに横になった。
睡魔が襲ってきた。
それを拒む理由もなかったので、逆らわなかった。


起きると昇の心配そうな顔があった。

「やっと起きた!病院行ったらなんとも無かったんだって?良かった」

ぼんやりと意識が現実へと戻ってくる。

「みねぎーのこと覚えてる?一緒に気絶した政宗をい家まで運んでくれたんだよ?
お礼言っときなよ?」

「……嫌だ。勝手にやったのはあっちだろ」

「政宗……」

「おまえが言っとけ」

なぜか、俺は昇の口から峰岸の名前が出たことに腹の中がムカムカした。

「不満があるなら言ってよ。少しはボクに頼ってよ」

なぜ、いきなり昇がそんなこと言ったのか理解できない。

「政宗はそんなにエラそうなのに胸の中に溜めすぎだよ」

何で笑顔でそんなことを言うんだ?

「大丈夫だから。怖くないから。言ってみなよ」

楽になるから。

昇はそんな言葉を最後につぶやいた。
お手上げだ。俺は意地を張るのをやめる。
だけど、自分が弱いのを認めて、
誰かにそのことを言うのは
勇気がいる。

「イライラするんだ……」

言葉と共に涙が出た。

こんな弱味、誰にも見せたくなかったのに!

「お前が……おまえが頼っていいっていったのに!」

「うん」

「それなのに!全然、気にしようともしないじゃないか!」

「うん」

「全部肯定してんじゃねえ!ふざけんな!」

「うん。ずっと友達だったじゃない?」

昇はまだ笑ってる。

「そしてこれからもずっと友達でしょ?」

「口元が笑ってんだよ!それに、ずっとなんて使うな!未来にどうなってるかなんてわかんないだろ!」

「だって、やっと頼ってくれたから嬉しくて。もっと早く言ってればよかった。
 未来はわからなけど、ボクは努力するよ、友達でいること」

昇の笑顔がムカつく。

「だから、ずっとだよ。政宗もそうでしょ?」

友達って言葉だけじゃないような気がする。

親友とか、家族とか、

大切な人?

うまく言葉にできない関係。

友達だし、兄弟みたいだし、幼馴染み。

家族みたいに育ってきた。


絆。

それが一番近い言葉かもしれない。


「笑わせるな!……そんなこと言わなくったてわかってただろ?!」

だから泣き腫らした目なのに、昇のこと睨んだ。
そんな情けない姿、一生誰にも見せたくないのに。


あれからずっと泣けなかった。

だから泣かなくても生きていけると思っていた。


でも泣いた後、ひどくすっきりした。



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