カイリは警報で目が覚めた。
「何の音?」
急いで身支度を整えた。 緊急事態の場合に供えて父親であるビットがいろいろ揃えていた。
「良くないことが、とうとう起こったのね……」
ビットは言っていた。カイリがここにいられないような事態が起こるかもしれないと。 命さえ危うくなるような事態に。
「よお」
「フリー!」
「ここから出るぞ」
「この事態はあなたが?」
「まさか。なんで安全な場所を壊すようなことをするんだ」
「だって、ここを出たいか、と言っていたじゃない」
「逆だ。ビット博士だって言ってただろう?危険な事態が起きるって。ここから出ることになる覚悟が必要だと思ったんだ」
「パパが心配してること……それは、私の不安でもあるの。ここから出ることは容易いけれど、出た後が怖いの」
「ここを出たくないのか?」
「いいえ、出たいわ。今が出る絶好の機会であることもわかるわ」
「じゃあ、もう行くしかないだろう。博士にお前のことを頼まれた」
「パパにお別れ言える?」
「来れたら、博士は来る。もう時間がないから、行くぞ。言えないかもな」
ものすごい勢いで部屋のドアが開いた。
「カイリ!フリー君」
息を切らしたビットがいた。
「なんだよ、来れないかもって言ってたのに」
「パパ!私、行くわ」
「うん、大丈夫。またすぐ会えるよ。大事な話をしないといけないしね」
親子で涙を流していた。涙もろいらしい。
「感動のところ悪いけど、誰か来る。早く行こう。とりあえず、森へ……母さんのところに行く」
「頼む……そして、この世界のことを話してもらうように伝えてくれ、君のお母さんに。あなたの言葉でこの世界のことをカイリに話してって伝えて」
「面倒くさいけど、頼まれてやる。母さんも喜びそうな気がするし」
「ありがとう、フリー君。僕の子供達。どうか無事でいて」
カイリは一瞬不思議な顔をした。
子供達とはどういうことだろう、と思ったのだ。
その時は緊急であったし、深く考えていなかったが、このことはとても重要なことだったのだ。
後に、気付いた時は遅い、という人生のやりきれない経験をすることとなるのだった。
フリーに手を捕まれたカイリは窓から外へ出ようとした。
建物は二階だったにも関わらず、フリーはそんなことを気にしない。 近くの木の枝を中間点に使い、先に飛び降りると、カイリに飛び降りるように指示する。
ドアが破られ、カイリが全く見たことのない者達にビットが捕まっていた。 カイリにも手が伸ばされる。
見ていたのは、フリーの目だけだった。吸い込まれそうなほど漆黒の瞳。
カイリは躊躇いもなく、飛び降りた。 フリーがきちんと受け止めた。
「本当は全部わかってるわ、パパ。だから、泣かないで」
二人は、施設から逃げた。
ビットを残して。
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