-前章- a drop of see

5

カイリは警報で目が覚めた。

「何の音?」

急いで身支度を整えた。
緊急事態の場合に供えて父親であるビットがいろいろ揃えていた。

「良くないことが、とうとう起こったのね……」

ビットは言っていた。カイリがここにいられないような事態が起こるかもしれないと。
命さえ危うくなるような事態に。

「よお」

「フリー!」

「ここから出るぞ」

「この事態はあなたが?」

「まさか。なんで安全な場所を壊すようなことをするんだ」

「だって、ここを出たいか、と言っていたじゃない」

「逆だ。ビット博士だって言ってただろう?危険な事態が起きるって。ここから出ることになる覚悟が必要だと思ったんだ」

「パパが心配してること……それは、私の不安でもあるの。ここから出ることは容易いけれど、出た後が怖いの」

「ここを出たくないのか?」

「いいえ、出たいわ。今が出る絶好の機会であることもわかるわ」

「じゃあ、もう行くしかないだろう。博士にお前のことを頼まれた」

「パパにお別れ言える?」

「来れたら、博士は来る。もう時間がないから、行くぞ。言えないかもな」

ものすごい勢いで部屋のドアが開いた。

「カイリ!フリー君」

息を切らしたビットがいた。

「なんだよ、来れないかもって言ってたのに」

「パパ!私、行くわ」

「うん、大丈夫。またすぐ会えるよ。大事な話をしないといけないしね」

親子で涙を流していた。涙もろいらしい。

「感動のところ悪いけど、誰か来る。早く行こう。とりあえず、森へ……母さんのところに行く」

「頼む……そして、この世界のことを話してもらうように伝えてくれ、君のお母さんに。あなたの言葉でこの世界のことをカイリに話してって伝えて」

「面倒くさいけど、頼まれてやる。母さんも喜びそうな気がするし」

「ありがとう、フリー君。僕の子供達。どうか無事でいて」

カイリは一瞬不思議な顔をした。

子供達とはどういうことだろう、と思ったのだ。

その時は緊急であったし、深く考えていなかったが、このことはとても重要なことだったのだ。

後に、気付いた時は遅い、という人生のやりきれない経験をすることとなるのだった。

フリーに手を捕まれたカイリは窓から外へ出ようとした。

建物は二階だったにも関わらず、フリーはそんなことを気にしない。
近くの木の枝を中間点に使い、先に飛び降りると、カイリに飛び降りるように指示する。

ドアが破られ、カイリが全く見たことのない者達にビットが捕まっていた。
カイリにも手が伸ばされる。

見ていたのは、フリーの目だけだった。吸い込まれそうなほど漆黒の瞳。

カイリは躊躇いもなく、飛び降りた。
フリーがきちんと受け止めた。

「本当は全部わかってるわ、パパ。だから、泣かないで」

二人は、施設から逃げた。

ビットを残して。





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