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 Only the memory 14


 問題の忘却病のビデオをみる前に、フォーカス家の話を少ししよう。

 カレンさえも覚えていない、記憶の話をしよう。

 フォーカス家は代々、科学者や研究者の家系だった。主に細菌や感染症の研究をしていた。

 それは、宿命のように代々引き継がれていった。歴史的大発見はできなかったが、日々、人々の暮らしの役に立つようにと、研究を続けていた。

 忘却病ウィルスを発見するまでは。

 そのウィルスが、この世界を今の状態にする原因になってしまったのだ。

 研究を繰り返す中、本当に偶然発見された。めもりが旅をする約百年ほど前だ。実際には百年未満だ。

 だが、百年という期間は、忘却病を世界中に感染させるのに充分な時間だった。

 対処ができないのだ。忘れてしまうからだ。自分が忘却病にかかったという意識さえなく、人々は忘却病にかかっていった。また、異常な感染率も関係していた。忘却病にかからない人間がいないほどに。忘却病と人類の親和性は高かった。

 また、忘却病患者から産まれた子供もまた、忘却病に罹患していた。

 この病を防ぐ手段を持つ人間はいなかった。

 めもりが産まれるまでは。ビットと旅するまでは。カレンと出会うまでは。

 残っている文献では、カレンの祖先の夫婦がウィルスを発見したが、彼らが故意なのか、過失なのかはわからないが、忘却病を拡大させたということになっている。なんらかの原因によってウィルスが飛散し、パンデミックが起きたのだ。夫婦の親友がスーパー・スプレッターだと言われている。

 ただ、これだけは覚えていてほしい。

 忘却病を発見した夫婦は忘れる薬の研究をしていた。辛い思い出に苦しめられている人に忘れてしまえる薬を活用してもらうために、研究していた。

 善意と悪意。どちらがフォーカス夫婦の正しい答えなのか、『答えは過去の中』。

 だが、過去という記憶を覚えている者は誰もいない。

 それが、今の世界だ。

 悪も善も簡単なことでクルリと翻る。

 誰にも正しいか正しくないかなどわからないのだ。それが、正しいことなのだ。

 忘却病が完治することはあるのかわからない。

 これから、フォーカス夫婦の善意と悪意が垣間見えるビデオ、記録をめもりは観るだろう。

 めもりは何を想い、何を感じ、何を決断するだろうか。
 
 これから、それが貴方たちにもわかるだろう。
 



※この話はフィクションです。忘却病なる病は、実際には存在しません。




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