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a diary is written 1

”覚えていられる世界ってどんな世界だろう?”

僕は毎日考える。

考えた一日は、寝ると消えてしまう。

だから僕は新しい発見をしたかのように、毎日毎日考える。

”忘れないでいられる世界ってどんなに素晴らしい世界なんだろう”と。

この世界の人々は、一日経つと全ての記憶を失う。

自分が誰だったかさえも。

忘れないのは、歩き方とか、食べ方とか、息の吸い方とか。

思考という意味で、この世界の人たちは、覚えていることができない。

嬉しかったことも、悲しかったことも。

自分が何をして生きていたかも、覚えていない。

僕は、生きる意味を考える。

覚えていない自分が生きてる意味。

日記を毎日つけている。

毎日書いている言葉がある。

”忘れたくない”



僕のことを少し紹介するね。

名前はビッド。

祖父ゆずりの大きな黒縁メガネは度が合ってないせいで、すぐ転ぶ。

赤毛、茶目。身長はあまり大きくない。

あわてん坊のまぬけ、村の皆からそう呼ばれている。

なんて、村の人たちも覚えていないから、言われるわけないだけどね。

僕の村は、人口50人くらいのとっても小さい村だ。

いや、他にどれくらいの人が生きているか、わからないから、小さい村かはわかrないけどね。
村に残っている本を読む限りじゃ、50人は少ないってことみたい。

この村を出ては、僕は生きていけない。

忘れてしまうから。

皆、工夫して協力して、今日できる精一杯をして生きている。

そうしてないと、忘れてしまう僕らは生きていけない。

そう、生きていけないってわかってるけど、僕はこの村を出たい。

まだ見ぬ未知のものを知りたい。

そう、覚えていたい。もっと知りたい。

どうして、僕が、この世界中の人々が忘れるようになったのか、知りたいんだ。

本を読むとわかる。

昔の人は覚えているのが当たり前だった。

全て忘れることが、おかしいことなんだ。

原因があるに違いないんだ!

僕は毎日そう思う。忘れてしまうからね。



僕は、毎日、得意でもない肉体労働をしていた。畑を耕し、日々の糧を得ていた。

自給自足の生活だ。

月明かりで本を読み、1日で忘れ、また読み、日記をつけることでなんとか、一度読んだ本以外を読むことができた。

ただ、日記も紙で無限ではない。

紙はもう作られることはないんだ。紙だけじゃない。鉛筆も消しゴムも。

紛失の危険もつきまとう。

もしかしたら、この世のどこかでは、作られているかもしれない。

時々、行商人もこの村に寄ってくれる。

それでも、紙も鉛筆も消しゴムも、簡単に手に入れられるものじゃなく、僕には貴重なものだった。

なくなってしまう日が怖くて仕方なかった。

忘れてしまうから、今思うと、なんだけどね。

そう、僕は忘れないでいられることができたんだ。

でも、そうなるまでには、とても長い時間と、ある一人の人間の人生が犠牲になってしまった。

僕の忘れてしまう人生とは比べ物にならないほどの苦しみだったと思う。

彼との出会いが、彼の行動が、僕だけじゃない、世界中の忘れてしまう人々を変えた。

彼は、英雄だ……と言えば聞こえはいいけれど、もっと身近で彼の旅を見てきた僕は、はっきりわかる。

英雄という皮を被った犠牲者だってね。

本人は、そう思ってはいないかもしれない。はっきり聞いたわけじゃないけど、彼の苦悩は、計り知れない。

最初からね。

世界にったったひとりだけ、覚えている人間なんて、考えただけで寒気がする。

馬鹿みたいじゃないか。

たった一人だけ、覚えているなんて!

次に会ったら、また自己紹介しなきゃいけないなんて、なんて酷い世界だろう。

好きになるって積み重ねな気がする。彼以外は、積み重ねできない。好きになってもらうことができない。

自分だけが好きなんだ。そんなの耐えられない。

彼は、自分だけが覚えている世界を変えたかったんだと思う。

僕なら絶望しているけれど、彼は、それだけじゃ終わらなかったのだ、きっと。

だけど彼は、覚えている世界より、今の忘れてしまう世界の方がよかったかもしれない、って言うんだ。

どうしてなんだろう。僕にはわからない。



僕はそれまでの日々を無為に生きてきたことに気付くんだ。

そう、メモリと出会ったから。奇跡みたいなことだった。

だって、彼は、この忘れてしまう世界で、ずっと忘れないでいられる人間なんだから。

はじめてメモリに会った時、感動して興奮してしまった。忘れない人間がいるなんて!

信じられなかった。

僕は必死に頼み込んだ。一緒に旅に連れていってくれ、と。

あんまりしつこく頼むものだから、彼はしぶしぶ了承した。

忘れない人の側にいられるなんて夢みたいだった!

あ、そうそう。メモリの旅の目的は、自分と同じように忘れない人間がいるって噂をきいて、捜しているんだって。

忘れない人間が更にいるなんて、夢みたいだ!

僕は、この世の中どうしようもなく無駄な世界だと思っていたけれど、メモリに会って、灰色だった世界が鮮やかな色に変わったん
だ。

この世には意味がある!

メモリは口数の多い性格ではなかったけど、必要なことはちゃんと言ってくれる人間だ。

僕は、メモリを尊敬しているし、彼のためなら、この命も惜しくない。

出会った時も、僕は命を救われたのだから。


このお話は、そんな話。彼、メモリと僕の旅の話。


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