鬼クラスター


 今は昔。二人のお金持ちな女子高生がいました。一人は能天気な女子高生でした。もう一人は神経質な女子高生でした。そして、二人にはそれぞれ若干年上の婚約者がいました。脳天気な女子高生は、ちょっと太めな年上の婚約者でしたが、特に気にすることなく、婚約を受け入れていました。しかし、神経質な女子高生は、頭の毛が少し薄い年上の婚約者のことを邪険に思っていました。女子高生二人は同じお嬢様学校に通っていて、お話しをすることもありました。

「自分の婚約者に不満はないわけ?」

 神経質な女子高生が訪ねます。

「ないよ。彼はとっても優しくていい人だもん。不満に思うところなんてないよ」

「ふーん。幸せね」

「あなたは幸せじゃないの?」

「そうね。婚約者の頭が薄くなければ、幸せだったかもしれないわ」

「別に少しくらい頭が薄くても、性格が良ければいいんじゃないの?」

「よくないわよ! あなたの婚約者だって、ずいぶん太っているじゃない」

「別に気にならないよ。でも、婚約は解消できないでしょう?」

「そうなのよ、親同士が決めたことで、家の会社の関係もあるから、簡単には解消できない」

「だったら、その人を好きになる努力をしなきゃ」

「それができたら苦労しないわ!」

 神経質な女子高生は、婚約者を受け入れられずにいました。



 そんな時、能天気な女子高生とその婚約者がデートをしていました。二人は、たくさんのお金を持っていましたが、昼下がりの空いている普通の電車に乗っていました。空いているので、座席に座っていて、気持ちいいお日様の光にうとうとしていました。彼女らは、自分たちが稼いだお金で、ごく普通に生活したいと願っていました。

「うーん……むにゃむにゃ」

 能天気な女子高生は、太めの婚約者の肩に頭を乗せて寝ていました。二人はとても仲の良い恋人です。 しばらくすると、不思議なことに電車内の空間が歪み始めました。暖かい黄色いお日様の光はオレンジ色になり、薄気味の悪い青い光と混じっています。うとうととしている二人は気づく気配がありません。そして、電車は、不思議な駅へと到着しました。

「……あれ? 電車が止まってる」

「暗くもなってるね」

 二人は電車から降りることに決めました。騒がしい音楽と声が聞こえていたので、そちらの方へ向かうことにしました。

「こうじゃない……むずかしいな」

 そこには、人間よりも大きな体躯の頭に角のある上半身はだかの者たちが、何かのダンスを踊っていました。赤い色の肌や青い色の肌の者たちでした。それは、鬼と呼ばれる者たちでした。二、三十人はいました。二人はこっそり近づきました。

「うーん、こうか?」

 なにかの踊りを練習しているようです。能天気な女子高生の婚約者が、その重い体とは思えない俊敏な動きで飛び出しました。

「ここは、こうです!」

 大きなお肉をブルンブルン揺らしながら、彼は踊っていました。

「パラパラ!」

 かろうじて知っていた能天気な女子高生は、その素晴らしい動きに拍手をしました。

「おぉ! おまえさん、上手だな!」

「昔、ちょっと踊っていたので。君でもできるのがあるから、こっちにおいで」

 能天気な女子高生を呼んで、楽しく踊りました。何時間か、踊り続けた頃。

「こんなに楽しい気分は、久しぶりだ! 上手に踊れたのも初めてだ」

 鬼たちが口々に言います。

「また来てくれ! それまで、その邪魔そうなお肉は、預かっといてやる」

 一人の鬼がそう言うと、能天気な女子高生の婚約者の全体的な贅肉が綺麗になくなりました。そこにいたのは、ただのイケメンでした。そうしているうちに、また、オレンジと青の光が混じり合い、二人を飲み込んでいきました。そして、目を覚ますと二人は電車の中にいました。

「あれ?! 痩せてる! 夢じゃなかったんだ!」

 能天気な女子高生が叫びました。そこには、鬼と踊った時にとられてしまった、贅肉がなくなった姿の婚約者がいました。最初は驚きましたが、二人は、次に行ったら返してもらおう、という話をしていました。



「不思議でしょ! お肉が全部なくなっちゃったの」

 能天気な女子高生が神経質な女子高生に学校で話していました。

「何それ! 私の婚約者も連れていくわ! パラパラくらい踊れるはず!」

「ちょっとまって、髪をますますとられたら、どうするの?」

「私は藁にもすがりたいの!」

 さっそく神経質な女子高生は、婚約者を誘い、昼下がりの電車に乗り込みました。そして、オレンジと青の光が混じり、電車が停止しました。ですが、神経質な女子高生と婚約者は、恐怖のあまりお互い抱き着きガタガタと震えていました。

「でも、行かないと! あなたの髪を増やしてもらいましょう!」

「やめよう。僕、パラパラは得意じゃないよ」

「とにかく行ってみましょう!」

 二人は鬼に会うために、音楽のかかる騒がしい方へ向かいました。

「二人が来たぞ!」

「踊ってくれ! 肉もなくなったし、さぞ切れのある踊りをしてくれるんだろう?」

 鬼たちがはやし立てます。ですが、二人はガタガタと震えていて、立つことすらできなくなっていました。

「なんだ、こいつら、踊らないのか!」

「つまらん! 何をしてるんだ!」

 そう言って、鬼たちは、神経質な女子高生の婚約者に、何かを放り投げる動作をしました。

「それを返す! もう二度と来るな!」

 能天気な女子高生の婚約者からとった贅肉が神経質な女子高生の婚約者へとひっつきました。これで、神経質な女子高生の婚約者は薄毛で太目という二重苦になってしまいました。再び、オレンジと青の光が二人を現実世界へと返します。二人が目をさますと、神経質な女子高生が泣き叫びました。

「どうしてこうなるの?!」


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